「ご飯食べよう」
昼休みに入り、私はいつも一緒に昼食を摂っている双子に声をかけた。
双子と言っても性別は違うし、見た目も全然似ていない。
兄の翔矢は長身で、色素の薄い髪は光を通すと銀色に輝いて見える。
一方、妹の美咲は身長は低い方で、私とあまり変わらない。
こげ茶の髪は高い位置で纏められているけれど、これを降ろすと座った時にお尻の下に敷いてしまうほどあると、前に言っていた。
「お腹空いたー、早く食べに行こう!」
「お前はそればっかりだな」
美咲が立ち上がった反動で、椅子が倒れそうになる。
それを上手く支えて、翔矢は溜息を吐いた。
「今日はどこで食う?」
「天気も良いし、外へ行かない?」
「よし、決まりだな」
翔矢はニッと笑うと、荷物を持って立ち上がった。
「よし行こー!」
美咲の元気な掛け声に苦笑しつつ、私と翔矢は彼女の後に続いて教室を出る。
古い校舎を出て、広い敷地を奥へ奥へと歩いて行く。
踏み固められた白い土を辿って行き着いた先は、裏山に程近い、小さな広場。
周りを様々な種類の樹木で囲まれたその場所は、賑やかな校内でも数少ない穴場だ。
「やっぱりここが一番気持ち良いや」
中央に生えた桜の根元に腰を降ろし、私はホッと息を吐いた。
いくら田舎とはいえ、四六時中人工物に囲まれていては、流石に苦しくなる。
「そんな事は良いから、早く食べよう」
「美咲、卵焼きよこせ」
「やだ」
木漏れ日に目を細めている私を挟んで、兄妹の会話が交わされる。
「もー、せっかく一息吐いたところだったのに!」
「美咲がいる時点で、それは諦めた方が良いぞ」
「何それー!」
そしてまた、兄妹喧嘩が始まる。
喧嘩と言っても、翔矢の言葉に対して美咲がいちいち反応するだけの、私達にしてみれば日常会話と言っても差し障りがない程度のものだ。
「まあまあ、食べるんじゃないの?」
「むーっ」
こういう時、喧嘩を治めるには美咲を宥めるのが一番手っ取り早い。
そして、美咲を宥めるには食べ物で釣るのが一番。
と言うことで、私は自分のおかずから、美咲の好きな鶏の唐揚げを差し出す事で、彼女を落ち着かせる事に成功した。
「ガキ」
「翔矢も挑発しないでよ、せっかく落ち着いたんだから」
何だかんだ言いつつ、翔矢も美咲が可愛いみたいで、いちいちちょっかいを出す。
本当に仲の良い兄妹だ。
そんな二人の間にいると、私は時々寂しくなる事がある。
でも、
「それ美味そうだな。俺のこれと交換しないか」
「唐揚げのお返しに飴あげる」
そんな時でも、二人はいつもこうやって私を忘れずにいてくれる。
だからいつも、寂しさはすぐにどこかへ飛んで行く。
「美咲、ありがとう。ねえ翔矢、そのトマトもちょうだい」
「う……わかった」
自分の好物を取られ、苦い顔をしている翔矢に、私と美咲の笑い声が重なる。
ああなんて楽しい時間なんだろう。
「ねえ、明日もお弁当持って出かけない?」
「良いね、それ」
「決定だな」
明日は休み。
天気予報は晴れ。
さて、どんなお弁当を用意しようかな?
おわり