チャイムが鳴り、皆が席に着く。
「星来ちゃん」
私が座るとすぐに、前の女子が話し掛けてきた。私は何となくボーっとしながら、彼女に目を向ける。
「もう、委員長なんだからしっかりしてよね。転校生が来てるんだから」
「分かってるわよ」
たしなめられて、私は溜息を吐いた。
そんな事、分かっている。
今日から新学期が始まる。
しかし私は未だ、夏休み気分から抜け出せていない。
長い休み明けには大抵、転校生が来る。
クラス委員長である私はその世話役を任される事が多いのだ。
だから、早く夏休み気分を脱して、学校に馴染む手伝いをしなければならない。
休み明けという事も手伝って、毎度の事ながら、少々の憂鬱を感じてしまう。
しかし、今回ばかりはその負担が軽減されそうだ。
「始めるぞー」
先生の後に続いて、背の低い女子が入ってきた。
白い肌に、背中まである黒髪が印象的だ。
担任の小林先生は、後ろの黒板に彼女の名前を書くと皆に向き直った。
「今日から皆と一緒に勉強する事になった、天満華月(あまみつかげつ)さんです。仲良くするように」
「よろしくお願いします」
小林先生の紹介を受けて、華月は深々と頭を下げる。
それと同時に、教室中から拍手が沸き起こった。
「何か、質問がある人は?」
拍手が収まるのを待って、先生が訊ねる。
するとすぐに、教室のあちこちからいくつもの手が挙がった。
顔の横に小さく上げている人もいれば、両手を挙げたり、腕ごと大きく振ってふざけているようにしか見えない人もいる。
先生は少し迷って、前から二列目に座る男子を指名した。
彼は机に手を付いて腰を少しだけ浮かし、「どこから来たんですか?」と早口で言って直ぐに座り直した。
「山形からです」
次いで当てられた男子は、聴き取りにくい声で「趣味は何ですか」と言った――ような気がする。
「読書です」と答えた華月の言葉から、それであると推測できた。
その後も、「好きな食べ物は」とか「兄弟はいるか」などといった、下らない質問が繰り返された。
それでも華月はニコニコしたまま表情を崩さず、当り障りのない適当な答えで交わしていく。
お喋り好きな小学生でも、しばらくするとだんだんネタが尽きてくる。
それを待っていたのか見計らったのか、一瞬の沈黙を境にして、先生はそこで一旦質問の時間を打ち切った。
そして間を空けずに、華月の席を決めようとしている。
すぐにでも次の話に移りたいらしい。
「空いてる席は……」
「ここ空いてるよ!」
クラス一五月蝿い男子が手を挙げた。
その隣は空席などではなく、クラス一大人しい女子の席だ。
彼女は言い返す事もできず、不安げにうろたえている。
他にもいくつか手が挙がった。
しかし、そのどれもに先客がいる。
標的にされてしまった女子は皆、戸惑うか怒ってしまって、教室は一次騒然となった。
「私の隣じゃダメですか?」
このままでは埒があかない。
私は挙手して立ち上がると、自分の左隣を指した。
そこは、夏休み中に越して行った男子が座っていた席だ。
「どうする?」
先生は他に挙がった候補と見比べて、華月を見た。
「もう決まりました」
華月が答えると、先生は頷いて彼女の背中を押しやった。
狭い通路を辿って、華月はいくつかの候補を通り過ぎる。
その度に、期待して待っていた男子が次々に肩を落とす。
そして最後に残った、窓際の最後列に華月がランドセルを下ろした。
爽やかな風と光が差し込む、一番居心地の良い席だ。
華月は腰を降ろすと、隣席の私に微笑んだ。
「よろしくね」
「こちらこそヨロシク」
私は笑みを返し、一緒に右手も差し出した。
華月は手を握って、くすぐったそうに肩をすくめる。
「何か変な感じだね」
「本当に」
クラス中の視線を浴びる中、私達は手を握ったまま二人で笑い合った。
‥NEXT‥
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