第一話
-先生のひらめき-
華月が転校してきてから、二ヶ月が経とうとしている。
窓の外は染まりゆき、服も生地の厚い物に変わった。
季節はもう秋だ。
そんなある日の事、華月と星来を悩ます事態が発生した。
「それじゃあ、来週までに自分の家系を調べてくるように」
生活科の時間、少々難しそうな課題が出されたのだ。
「家系だって」
「どうする?」
二人は顔を見合わせ、揃って唸った。これは困った事になった。というのが、華月の率直な感想だ。
「どうした、浮かない顔をして」
二人の前に、担任の小林が顔を覗かせる。と、星来が不満そうに唇を尖らせた。
「先生、ひどい」
「何が?」
「家系って、家系図を書くんでしょ? そんな事を私達にやらせるなんて……」
「皆もやるんだぞ? 分かる範囲で構わないから」
しかし小林は、何ともない顔で言った。だが、星来が言いたいのはそう言う事ではない。
「ちがーう! そうじゃないのっ」
星来は小さな子供のように足をばたつかせ、頭を振った。
「分かる範囲でも、物凄い数だって前にお父さん達が言ってたから」
「そういうことっ」
華月が変わりに言うと、星来は頷き小林を睨んだ。
「なるほど」
小林は、そこでようやく理解したようだ。手を叩き、その手を顎に当てて考える仕草をして見せた。
「そうだ、こうしよう」
少しして、小林は人差し指をピンと立てた。何かひらめいたようだ。
「君達二人に関しては、天満と天野にまつわる逸話でも良い事にしよう」
立てた指をクルクル回して、小林が言う。
「いつわ?」
「例えば?」
訊ねると、小林は既に答えを用意していたらしい。ニコッと笑い、回していた指で二人を交互に指した。
「兄弟で名字が分かれる理由、とか」
例えるなら、二人の父親だ。
兄の裕也は、長らく続く天満の名を受け継いだ。しかし弟の和也は、独立を機に天野と名を改めた。これには一体、どういった理由があるのか。
勿論、華月も気になったことはある。聞いた事もあったはずだ。しかし、随分前に聞いたせいで記憶が曖昧なのだ。
「ただし、それだけだと他の子に文句言われるから、ご先祖様にどんな人がいたとかも調べて来てね」
それだけ言うと、小林は教室を後にした。
「……できるかなあ?」
「さあ」
残された華月と星来は顔を見合わせ、深い溜息を吐いた。
‥続く‥