夜、父親の裕也が帰宅すると、華月は両親に今日の事を話した。
「へえ、今時はそんな授業があるのか」
裕也は感心の声を上げ、持っていた杯をテーブルに置いた。
「じゃあ、華月は星来と一緒に発表するのか?」
「そうよ。私達の場合、どっちを辿っても、ご先祖様は同じだからね」
それではと、裕也は身を乗り出し華月を覗き込む。これは、人にものを訊ねる時の格好だ。
「お前達は、天満を調べる訳だな?」
「そのつもり。でも……」
先祖を辿るだけで、気が遠くなりそうだ。
天満の家系は、現代では珍しいほどはっきりしている。遡るのが難しいとされている戦国時代以前は勿論、鎌倉時代までなら確実に辿る事ができると言うのだ。そこより更に遡れば、後に伝説めいた話にも巡り合えるとも言う。
そこに華月は目を付けた。その、伝説めいた話であれば、小林も満足するに違いない。加えて、どのような先祖がいたかという条件もクリアできる。
「だから、教えて」
両手を胸の前で組んで頼み込むが、裕也はいまいち良い顔をしない。何故だろうと首を傾げれば、彼は唸りながら苦笑した。
「お前一人に話してもなあ……」
星来と組んでいるのだから、星来にも話したいと言う事だろうか。
「それだったら、明日にでも遊びに行ったらどう?
私はPTAの集まりがあるから……」
台所から、母の小百合が顔を覗かせた。きっと、明日の夕飯を悩んでいたのだろう。頼むようにこちらを見ている。
「分かった。和也に訊いてみる」
「よろしくね」
裕也が受話器を取り上げれば、小百合は安堵の表情を浮かべて台所に戻った。
「……ああ、俺だ」
繋がった受話器の向こうから、人の声が聞こえてくる。裕也の弟、和也だ。
和也は電話の声が大きいから、少し離れていても話している事が分かってしまう。耳を澄ましていると、『大丈夫だ』とか『六時頃』などと聞こえてくる。
「おう、じゃあ明日な」
五分も話さない内に、会話は終了したようだ。
「明日の夜、六時頃に来いだと」
「うん、聞こえてた」
「あいつ声でかすぎだな。ああ、耳が痛い」
裕也は受話器を元の場所に戻し、耳に手を当てた。
「明日注意してやろう」
溜息混じりに呟き、注いだまま口を付けていなかった酒を、一息に飲み干した。
‥続く‥
PR