「……とまあ、こんなものかな」
話を終えた裕也は、大きく息を吐いて座卓の上に置いた猪口に手を伸ばした。中にはいつの間にか、日本酒がなみなみと注ぎ込まれている。
「そんな事が、本当にあったの?」
「何か嘘臭い……」
どちらも、物語としては面白いと思う。しかしこれでは、何か指摘された時に困ってしまう。そうした時に、ただ「言い伝えだから」とも言いたくない。
そのように伝えると、酒を飲んでいる裕也に代わって、和也が言った。
「それなら、これでどうだ?」
いつから用意していたのだろう。和也は、座卓の下から細長い箱を取り出した。蓋を開けると、中から巻物が現れた。柄の入った緑色の台紙が、高級そうなイメージを醸し出す。
「これは写し――コピーだよ。本物は本家にある」
言いながら、和也は白い手袋を嵌めた手で巻物を取り出した。コピーであっても、こうやって大切に扱うのだから、これはこれで相当な年数が経っているに違いない。
近寄るのにも躊躇いを見せている二人の前で、和也は慣れた手付きで巻物を開いて見せる。そして、目的の項を見付けると手を止め、そこを指差した。
「ほら」
「あっ!」
巻物の中身は、家系図だった。その一番先頭に置かれた名前を見て、華月と星来は揃って声を上げた。和也が指差す所にあったのは、“月”と“雫”二人の名前。
和也と裕也は、目を丸くする二人をチラリと見て、口元に薄く笑みを浮かべた。そして、「これだけじゃないぞ」と言って、更に巻物を広げた。
「ほれ、ここにも」
「ああっ!」
ここでもまた、華月と星来の声が重なった。その様子に、裕也と和也は悪戯が成功した子供のように、愉快そうに笑い声を上げた。正直、父親達の態度は若干気に障った。だがそれよりも、家系図に記された名前の方が今は気になるのだ。
この図の始まりからずっと下った所に、四人兄弟の名前がある。その最も末に、“桜花”の名前が記されていたのだ。
「ここに書かれていると言う事は、その名前の人間が、確かに存在したと言う事だろう」
未だ言葉が出ない二人に、裕也が諭すように言った。
「ねえ、星来。これ、すごいかも」
「うん、すごいよ。これは……」
ようやく声が出せるようになって、華月と星来は顔を見合わせた。そこへ、二人の父親が彼女達の肩を叩いた。
「どうだ?」
「良い物が作れそうか?」
これに対する答えは、相談しなくとも最初から決まっていた。
「勿論!」
二人揃って頷けば、裕也と和也も揃って笑みを浮かべた。
‥続く‥
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