「これは、昔から天満に伝わる物語です」
話し終え、華月は読んでいたノートを下ろし、星来も画用紙を倒した。そして揃ってお辞儀すると、教室中から拍手が沸き起こる。
華月達の発表を、皆真剣に聞いてくれた。時に瞳を輝かせ、時に怯えたように肩をすくめる。それぞれが面白いと感じる場面は違ったようだが、とりあえずは喜んでもらえたようだ。
「いやあ、素晴らしかった」
小林が、皆と同じように手を叩きながら華月と星来に歩み寄って来た。
「満足ですか?」
「うん」
華月の問いかけに、小林はにっこりと笑い、深く頷いた。
「とても良い話だったよ」
「良かった」
喜んでもらえたなら、何よりだ。
小林の答えに、隣にいる星来が胸一杯に空気を吸い込み、思い切り顔を綻ばせた。
満足。今はその一言に尽きる。
「でも、家系を調べるっていう宿題だったはずだけど」
充足感を打ち破るように、一番前に座っていた背の低い男子が不満気にこちらを見上げた。
「こんな物語を作れなんて、言われてないよ」
不平等だ。そう言うように、彼は小林を睨み上げ不満をぶつける。小林は対応に困っているようで、短い前髪を掻き揚げて眉をひそめた。
「……そうね、でも」
華月は一旦目を閉じて、脳裏に浮かんだ数々の映像を見詰め直す。そしてその映像を抱えるように、両手をそっと胸に当てた。
「作り話とは言い切れないのよ」
事実、前日見せてもらった家系図の一番最初には、月神と雫の名があった。また、そのずっと下に、桜花の名前も書き込まれていたのだ。
例え作り話だとしても、その元となった人物は実在する。それが一体、何を意味しているのか。
「もしかしたら、ね」
火のない所に煙は立たない。もしかしたら、本当に……。
見も知らない過去に思いを馳せる華月。その様に、さっきまで不満がっていた男子は、黙って下を向いてしまった。
むかしむかし、いつかの時代、どこかの町。
本当にあったかもしれない物語。
‥終わり‥
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