月神と人間の娘が結ばれてから、数百年の時が過ぎた。
二人が出会った田舎道も、この頃には綺麗に整備され、その両脇には町屋が隙間なく詰め込まれている。
目覚しい発展を見せた町だが、都市ならではの問題も発生した。
犯罪、特に殺人事件が多発したのだ。
この町には、凶暴な妖怪がいる。そのために、町民の帯刀が認められていたが、それに関する規制が不完全だった。
ある者が護身用の刀を喧嘩に用い、そこで血の味を覚えてしまったのだ。そこに目を付けたのが、闇の力を持つ者だ。
人を殺して生まれた心の闇に術をかけ、その者を殺人鬼へと変えてしまったのだ。
その後は術をかけずとも、殺人鬼が邪気を振り撒き、それを浴びた者は簡単に殺人鬼へと変貌する。まるで細胞分裂をするかのように勝手に増えていき、しまいには町中殺人鬼で埋め尽くされてしまった。
そんな時に登場したのが、天満の末娘である桜花だ。
彼女は大人の男を簡単に倒してしまうほど、剣術に長けていた。そのために、剣の腕を生かして鬼退治を己の仕事にしていたのだ。
桜花は殺人鬼達を倒していく内に、ある事に思い至った。
それは、「殺人鬼を生み出す根本である闇を絶たない限り、この町に平和は戻らない」という事。
そう気付くと、正義感の強い桜花はすぐに、殺人鬼を生み出した犯人を探し始めた。しかし、そう簡単に見付かる訳もない。
探し始めてから一ヶ月経っても、そして一年が経過しても、影も尻尾も垣間見る事ができなかったのだ。
しかし、桜花が犯人探しを始めてから、二年が過ぎようとした頃だ。とうとう、殺人鬼を生み出す男を発見した。
男は強い闇の力を持っており、戦いと血こそがこの世の全てと思い込んでいるような者だった。
桜花は僅かな仲間と共に、男に挑んだ。
戦いでは、かなりの苦戦を強いられる事となった。仲間は傷付き、自らも無数の傷をあちこちに付けられた。
しかし、相手もさすがに無傷とはいかず、勝負は五分五分という所だ。
これでは勝てる見込みがない。そう悟った桜花は、刀を構えたまま男に突進した。
桜花の刃が男の腹を突き刺し、攻撃は成功したかのように思われた。しかし、同時に桜花は目を見開いたまま動かなくなる。
男の刀が、彼女の心臓を貫いていたのだ。
桜花は即死。だが、男の方は微かだが息があった。そして、途切れ途切れの呼吸の中で、男のうめく声が聞こえてきた。
「必ず、天満を滅してやる」
それは、とても瀕死状態とは思えぬほど、はっきりとした声だった。その後すぐ、仲間の一人が男の息の根を止め、そこで漸く戦いが終わった。
しかし、またいつ闇が蘇り攻撃してくるか分からない。
そこで当時の天満当主は、桜花の兄達が独立する時、それぞれ別の名字を名乗らせる事にした。
そうする事によって、天満の血を後世に残そうとしたのだ。
以来、天満では二人以上兄弟がいる場合、それぞれ別の名字を与え名乗らせている。
‥続く‥
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