「おはよう」
「理奈、おはよう!」
朝、理奈が教室に入ると、華月が駆け寄って来た。
「あのね、聞いて。昨日……」
そして、嬉しそうに語りだす。華月の話を聞きつつ、理奈は思わず顔を綻ばせた。
「何?」
「何でもない」
ただ、嬉しくて。
言葉に出さず、心の中だけで呟けば、華月が不思議そうに首を傾げた。
あの日から、華月は変わった。以前は話そうとしなかった剣道部の事を、自分から話してくれるようになったのだ。
それだけはない。それ以外の事、例えば前に通っていた学校の話もしてくれるのだ。
以前に比べて、少しだけ自分の話をするようになった。それだけなのに、なぜこんなに嬉しいのだろう。
何となく可笑しくて、口元を緩ませる。
「あ、やっぱり何か考えてる」
これまで注意深く見詰めていた華月が指摘する。理奈は慌てて取り繕う事もせず、そのまま素直に笑顔を浮かべた。
「本当に、何でもないよ」
ただ、嬉しくて。嬉しすぎて、止まらないだけ。
「だったら、どうして笑ってるのよ」
華月はなおも問いただす。しかし理奈は、それに答える事なく、ただ微笑んだ。
仕方ないのだ。嬉しいと思えば、顔が勝手に反応してしまうのだから。
「もう。理奈ってば、変だよ」
「うん、知ってる」
変。それは、自分でも不思議なくらいよく分かる。
理奈が即答すると、華月は暫く反応に困っているようだった。それに対し笑みを投げかければ、華月は諦めたように笑った。
「本当、変なの」
笑い合う理奈の胸は、すっきり晴れている。どこを探しても、以前のようなイライラは微塵も残っていなかった。
‥END‥
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