裕也を探しているはずだった、星来の父親が館内に入って来た。見ると、両手に大きな袋を抱えている。
「おじさん?」
「ああ、理奈。悪いけど一つ持ってくれないか?」
「はあ……」
とりあえず、視界を塞いでいた袋を取り上げる。中を覗くと、有名な弁当屋の箱が大量に詰め込まれていた。
「お弁当?」
「さっき、兄に頼まれてね」
なるほど、それで外から来たのか。
「どうぞ」
両手が塞がっている彼の代わりに、体育館の扉を開けてやる。
「ありがとう」
彼が礼を言いながら扉を潜ると、理奈もその後に続いて体育館に入った。
「遅かったじゃない……って、どうしたの?」
知らない内に発生した大荷物を指して、星来が訊ねた。ついでに、自分の父親がいつの間にか戻っていた事にも驚いているようだ。
「兄貴、持って来たぞ」
「おお、ご苦労さん」
裕也は弟から袋を受け取ると、振り向いて声を上げた。
「昼食にしよう」
結局、理奈達も弁当を貰って食べた。
さすが、お袋の味を売りにしているだけあって、どれも健康的な味付けだ。煮物の味は濃すぎず、揚げ物の衣も程良い厚さだ。
「はー、美味しかった」
満腹の腹をさすって、華月が立ち上がった。
「先生、今日はもう終わりなんですよね?」
「うん」
先生と呼ばれる若い男が、華月の問いに頷く。すると華月は、自分の荷物を持って更衣室に入って行った。
「そうだ、兄貴」
「何だ?」
弟である星来の父親に声をかけられ、裕也がゴミを集めながらそちらを向く。そこでは、兄の片付けを手伝う弟の姿があった。
「今夜、家で飯食わないか? 理奈と麻美も」
「え?」
突然名前を呼ばれ、そちらを見る。彼は理奈と目が合うと、口角を上げた。
「三人とも、華月に言いたい事があるらしいから」
そして目をやった先に、着替えを終えた華月が現れる。
「……何、ですか?」
一気に視線が集められ、華月は困惑の表情を浮かべる。そして、「私何かやりましたか?」と不安そうに首を傾げた。
「今晩、天野家に行くぞ」
「へっ?」
唐突に告げられ、華月は益々混乱しているようだった。
‥NEXT‥
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