翌朝登校すると、華月は既に教室にいた。クラスメイトの女子に囲まれて、何やら楽しそうだ。
「おはよう」
「おっはよう」
理奈が声をかければ、華月はいつもの笑顔をこちらに向ける。
こっちの気も知らないで。理奈の代わりに、隣に立つ星来がぼやいた。
「入らないの?」
理奈達の様子がいつもと違う事に気付いたのか、華月が首を傾げる。そして手招きして、三人に教室へ入るよう促した。
「ねえ、華月。昨日はどうだった?」
「昨日?」
いち早く華月に近付くと、星来が訊ねた。しかし当の華月は、質問がストレート過ぎて、どの事を訊かれているのか分からないようだ。
「剣道、行ったんでしょ?」
「ああ」
仕方なく理奈が補足すると、ようやく理解したようだ。華月は頷いて、少し考える素振りを見せる。
「うん、楽しかったよ」
そして出てきた答えは、予想を裏切らない明るいものだった。
「でも、どうして?」
「え……」
星来は答えに詰まっているが、会って早々訊ねられたのだ。不思議に思うのに無理もない。
「昨日随分急いでたから、間に合ったかどうか気になってたんだ」
言葉に迷う星来に代わって、理奈が言う。すると星来は助かったと言うように、何度も頷いた。
「ああ、あれね。実は開始時間間違えて、三十分も早く着いちゃったの」
「何だ。結局間に合ったんじゃん」
一度会話に参加している全員と笑い合った後、理奈は星来と麻美を引っ張って教室の隅に寄った。
「何か違うよね」
「うん、違う」
「そうかなー?」
最初からやる気のない麻美の声を退けつつ、理奈は腕組みする。
「やっぱり、こういう事は自分から言って欲しいよね」
「そうよねー」
俯いて唸る二人の横で、麻美が「何だって良いじゃない」と能天気に言っているのが聞こえる。
「何の話?」
「わっ、華月」
華月が突然輪に入ってきて、理奈は思わず声を上げてしまった。それに対し、華月は訝しそうに首を傾げる。
「華ちゃん、あのねー……」
「何でもないよ!」
何か良からぬ事を話そうとしている麻美の口を塞ぎ、理奈は愛想笑いを浮かべた。星来も同じように笑って、頷いている。
しかし余計に、華月は不審そうに理奈を覗き込んだ。
「何か隠してる」
「そんな事ないよ。ねえ、姫」
「うんうん」
星来が頷き、麻美にも目をやった。だが、麻美は不機嫌そうに頬を膨らませ、とても良い答えを貰えそうにない。
それでは仕方ない。
「あっ、もう始まるよ!」
「本当だ、私達行くね!」
理奈が時計を見て声を上げると、星来がすぐに意図を理解する。そして麻美を引っ張り、自分の教室へと向かった。
「……理奈」
「あ、先生来るよ」
華月が何か言いたそうにしていたが、理奈は強制的に会話を終了させた。
そして華月を椅子に座らせ、自分も席に着く。華月は暫く不満そうにしていたが、時間が経つに連れて表情が和らいでいった。
その様子に、理奈は安堵すると共に落ち込んだ。
「嘘吐いちゃった……」
「おはよう!」
理奈の溜息は、担任の元気な挨拶によってかき消された。
‥NEXT‥
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