次の日、学校に行くと希恵は体育館の前で、私達が来るのを待っていた。
「希恵ちゃん、おはー」
「おはよう」
希恵は私達を見つけると、安心したように表情を緩ませ駆け寄ってきた。しかし、それもほんの一瞬のことで、またすぐに眉を寄せる。
「ああ、どうしよう」
希恵は不安そうに、両手を押さえている。
「緊張してるの?」
触れてみると確かに、希恵の手は細かく震えて、緊張している様子が伝わってくる。そんな彼女の背中を、理奈が軽い力で叩いた。
「大丈夫」
「……大丈夫、大丈夫」
理奈の声に続けて、暗示をかけるように何度も呟いた後、希恵は目の前にそびえる鉄の扉を見据えた。
理奈の情報が正しければ、赤間は今、バスケの朝練をしている最中だ。
「……うん、大丈夫」
力強く頷いた希恵に微笑むと、理奈は扉に手をかけた。扉を開けた瞬間、体育館にいるほとんどの視線がこちらに向けられる。
私まで手が震えてきたが、こんなところで逃げ出す訳にいかない。
「赤間いる?」
理奈が訊ねると、パス練習をしていた赤間が、ボールを他の人に預けて駆け寄ってきた。
「何の用?」
少し迷惑そうに眉をひそめる赤間に、希恵が後ずさる。後ろにいた華月が、その背中を軽く押して彼女を促した。
希恵は一度深呼吸した後、ポケットから鍵を取り出し赤間の前に差し出した。
「ごめんなさい、本当は私が盗ったの」
深く頭を下げる希恵に、赤間は目を丸くする。そして鍵を受け取ると、目を伏せて口の端を少しだけ上げた。
「うん、知ってた」
「……え?」
これには、希恵だけでなく私達も驚いた。思わず顔を上げた希恵の前に、赤間はカメのキーホルダーを差し出す。
「なくしたって騒いでたけど、よく探して見たら、ランドセルの底の方に入り込んでたの。後で返そうと思ったんだけど、まさか今来るとは思わなかったよ」
赤間は希恵の手にキーホルダーを握らせると、今度は彼女が頭を下げた。
「私の方こそ、嫌だって言ってるのに盗ったりしてごめんね」
そして頭を上げると、私達をぐるりと見回して眉を寄せた。
「天満さん達も、嫌な思いさせてごめんね」
「いや、私達は別に……」
華月は言いかけて、私達を見る。私は頷いて理奈と麻美にも目をやると、四人揃って微笑んだ。
「良い経験させてもらったから」
普通ではなかなか経験できない事を、今回させてもらった気がする。
こういう事がなければ、四人で協力して、それも本気になって何かを成し遂げるなどあり得なかった。
そういう意味では、良い経験だったと言えよう。ただ、
「今後はこういう事がないように」
巻き込まれるのは御免だ。
「気を付けます」
赤間と希恵の声が重なり、一拍後、笑いが沸き起こる。
「一件落着?」
「そのようで」
私達はすっかり安心して、赤間と希恵のやり取りを見ていた。周りが退散し始めているのに気付いたのは、それから暫く経った後の事。
‥NEXT‥
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