ようやく星来が落ち着きを取り戻した時には、他の児童はほとんど下校していた。
空を見ると、雲が赤みを帯びている。
「そもそも、華月が悪いのよね」
自宅まであと半分の所で、星来が思いついたように口を開いた。もしかして、忘れていたのだろうか。
「今更?」
「というか、何があったの?」
そういえば、麻美にはまだ事情を説明していなかった。理奈が星来に目を向けると、彼女が頷く。
「華月、スポ少で剣道やってるじゃない? その事について、私達に何も話してくれた事がないのよ」
「それが、どうかしたの?」
人差し指を立てて力説する星来だが、麻美は不思議そうに首を傾げる。
「気にならないの?」
同時に、「ムカつかないの?」というようにも受け取れる口調だ。しかし麻美は表情を変えず、首を振る。
「ぜーんぜん」
予想外の麻美の返答に、星来が更に問い正す。
「何で?」
「何でって、何で? 別に、いじめられてる訳じゃないんでしょ? それなら問題ないじゃない」
そう言って、麻美が満面の笑みを浮かべる。しかし、それでは困るのだ。
「麻美、分かってるの? 何も話してくれないんだよ。これじゃあ、いじめられてるかどうかも分からないよ」
「あ、そっか」
理奈が説明すると、麻美もようやく理解したようだ。
「それじゃあ、ちょっと心配よね」
「でしょ?」
それでも、その表情は大して変わる事もなく、軽く眉を寄せるだけだ。
「だから明日、それとなく訊いてみるのよ」
「はーい」
やる気のなさそうな返事をして、麻美が駆け出した。
「それじゃあ、また明日ね」
「あっ、もう……」
道路を渡り、振り返らずに走り去る麻美の背中を、星来が睨み付ける。
「あの子、やる気あるのかしら」
「どちらかと言ったら、ないんじゃない?」
麻美の変わりに理奈が答えると、星来は「そうよねー」と溜息を吐いた。
「何か、あたしよりも熱入ってるね」
「何事も、とことんやらなきゃ気が済まないの。特に今回はね」
理奈がクスリと笑うと、星来は手を握り熱意を表現する。そして、その手を空に向かって突き上げた。
「やるぞー!」
「おー!」
理奈が続けて拳を振り上げれば、星来は嬉しそうに目を細める。とりあえず、全ては明日からだ。
‥NEXT‥
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