透明な雫が、指の隙間から零れ落ちる。それを両手で受け止めながら、私はゆっくりと口を開いた。
「鍵、赤間さんに返しに行こう?」
しかし、希恵は嗚咽しながら、震える声で言う。
「でも、……赤間さ、んが、なん……て言う、か…………」
「そんな事、やってみなきゃ分からないよ」
理奈はそう言って、希恵の頭をポンと叩いた。
希恵が顔を上げると、理奈は更に続ける。
「上手くいかないのは仕方ないけど、やる前から逃げてたら、成功も逃げていくんだ。もし、失敗したとしても死ぬ訳じゃないんだし、やるだけやってみようよ」
「あとは神様にでも任せてさ」と、理奈がにこりと笑った。希恵は最初ポカンとしていたが、すぐに口元を綻ばせた。
「……うん」
ふわりとしたその微笑みは、今まで見た中で一番素晴らしいもので、私は思わず言葉を忘れてしまった。
「……何だ、笑えるじゃない」
「え、私笑ってた?」
ようやく言葉を取り戻し呟くと、希恵は恥ずかしそうに顔を覆った。その仕草もまた、とても微笑ましい。
私は何故か嬉しくて、緩んだ口元はそのままに、希恵の頭を叩くように撫でながら顔を覗き込んだ。
「ねえ、友達になりましょう」
「え?」
「一人はつまらないもの」
ね、と微笑みかける。すると希恵は目を大きく見開いた。
「私を許してくれるの?」
「許すのは赤間さんだもん、私達じゃないわ」
言うと、希恵は理奈、麻美、そして華月の順に顔を見回した。その誰もが笑っている。
「本当に? 嘘じゃない?」
「姫の友達は私の友達だ。拒む理由もないしね」
「うんうん」
何度も、確かめるように訊いてくる希恵に、三人とも微笑ましそうにしている。
「明日、学校に来たら、一緒に届けに行こう」
華月から鍵を手渡され、希恵は暫く不安そうにしていたが、少しして、ようやく心が定まったのか、真っ直ぐ華月を見詰めた。そして、
「うん」
力強く頷いた。その表情は、さっきまであれほど不安がっていた事が嘘のように、晴れ晴れとしている。
「それじゃあ、明日、頑張ろうね」
「うん、ありがとう」
満面の笑顔を返され、私は思わず照れてしまった。
「ところで、探し物は見付かったの?」
「ううん。でも、もういいや」
照れ隠しのつもりで訊ねると、希恵は首を振って、少し悲しそうに微笑んだ。
「多分これは、私への罰だと思うの」
悪いことを訊いてしまっただろうか。そう思って見ていたが、希恵は恥ずかしそうに笑って頬を覆った。
「なあに?」
「ううん、何でもない」
何事もないように笑う希恵に、私はホッと胸を撫で下ろし、微笑みを返す。
「帰ろうか」
この日の帰り道は、いつもより少しだけ賑やかだった。
希恵を五人目の仲間として新しく迎え入れ、何やらくすぐったい変な感じがしたけれど、私はそれがとても嬉しかった。
‥NEXT‥
PR