放課後も、私達は聞き込みを続けた。
顔の広い理奈は下級生、麻美と華月は上級生の所へ出かけて行き、私はまだ何も聞いていない先生達を担当する事になった。
「先生ーっ、ちょっと良いですか?」
「お、元気だな。どうした?」
「この間、四年生の子の鍵がなくなった事知っていますか?」
通りがかった先生にはとりあえず、手当たり次第に声をかけてみる。しかし、都合の良い答えばかりが返ってくるはずもない。
「その時間、怪しい人を見ませんでしたか?」
「うーん……よく覚えていないな」
「そう、ですか。ありがとうございました」
大体が、こんな感じだ。私は、頭を下げて先生を見送ると、盛大に溜息を吐いた。
「星来?」
そこへ、不意を突いて声がかかる。慌てて振り向くと、そこでは担任の小林先生が、日誌を片手にこちらを見ていた。
「まだ帰っていなかったのか」
「はい、まあ……」
小林先生であれば、なぜまだ帰らないのか察しが付きそうなものだが。思いながら、私は曖昧な声を返す。
「……天満さんの事?」
先生が、私の前に歩み寄りながら訊ねた。
「何だ、分かっているんじゃないですか」
溜息混じりに苦笑を返せば、自分が緊張していた事に初めて気が付いた。
それから私は笑みを隠し緊張を取り戻すと、先生を真っ直ぐに見上げた。
「先生は、赤間さんの鍵がなくなった時、誰か様子が可笑しい人を見ませんでしたか?」
先生にとっては突然の質問だろう。先生は黙って私を見詰めたまま、動こうとしない。
ここでも空振りか。諦めかけたその時だ。先生が軽く息を吐き、目線を僅かにずらした。そして、
「見たよ」
周りを気にしながら、短く言った。
「え?」
「えって……」
「あ、いえ」
まさか、当たりだと思わなかった。私が誤魔化すように笑うと、先生は半ば呆れたように息を吐く。
それから身を屈め、私の耳にその名前を囁いた。
「……それ、本当ですか?」
「うん、そこの柱の影から教室の方を見ていたから、変だなと思ったんだ」
先生はそう言って、手洗い場の柱を指しながら身を起こす。これは、初めて聞く情報だ。
「まあ、その現場を見た訳じゃないから、言い切れないけどね」
「そんな……充分です。ありがとうございます!」
私が頭を下げると、先生は慌てた様子で私の肩二手を添え、「頭を上げて」と抑えた声で呼びかける。その声に従って体勢を直す。
見ると、先生は未だに周囲を気にしながら、唇の前に人差し指を立てた。
「俺が話したって事は、内密に」
「はい」
私も、少し声を潜めて返事をすれば、先生は口元で微笑んだ。
「それじゃあ、頑張って」
「はい、ありがとうございました」
私がもう一度礼を言えば、先生は振り向かずに手だけを振り返した。
‥NEXT‥
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