今日も、何事もなく授業が終わった。
教科書をランドセルに詰めて帰ろうとすると、それを遮るように、数人の女子が隣の席を囲んだ。
「ねえねえ、あの話、聞いた?」
「うん、聞いた聞いた」
自分達が邪魔になっている事にも気付かず、彼女達はきゃあきゃあと噂話を始めた。
これでは帰れない。私は諦めて、浮かせた腰を椅子に戻し、ランドセルの蓋を開けた。
彼女達が話している間に、持ち物の確認でもしておこう。
「星来ちゃん達、頑張ってるみたいね」
結局何も忘れていなかった。そう思って蓋を締めようとした時、集まっている女子の内一人が、声を控え目にして言った。
周囲に聞こえないようにと言う事だろうが、隣席の私には、しっかりと聞こえている。
「何か、色んな人に話を聞いて廻っているみたい。さっきも、手分けしてあちこち行ってたわ」
彼女達の話を聞くと、星来達は他クラス、他学年、更には先生達にも協力を求めて走り回っているという。
「ねえ、天満さんは本当に、犯人じゃないのかな?」
今まで話を聞いていた一人が、仲間を順に見ながら言った。すると今度は、別の女子が声を上げて笑い出した。
「あの子が犯人な訳ないじゃん。見てればすぐに分かるって」
大袈裟なほど笑い続ける彼女に耐え切れず、私は立ち上がった。すると、彼女達は驚いた様子でこちらを向き、急に冷めた声を私に投げかけた。
「帰るの?」
「うん」
「そう、じゃあね」
「……うん」
皆の刺さるような視線が嫌で、私は僅かな隙間を縫って通路へ出ると、足早に教室を後にした。
その直後、後ろから彼女達の冷たい声が響いてきて、私はそれから逃れるように耳を塞ぎ、階段を駆け下りた。
外へ出ると、夏の鋭い日光が、足元に濃い影を映し出している。日影から一歩でも出れば、光は容赦なく私の肌を焼き始めた。
「……大嫌い」
夏も、太陽も。そして、何もかもを嫌う私自身が、何よりも嫌いだ。
結局、夏の強い日差しですら、私の中にある黒い影を照らす事はできない。
私は、独り溜息を吐くと、重い右足を踏み出した。
‥NEXT‥
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