翌朝、登校して見たら案の定、噂は学校中に広まっていた。
「星来、キレたんだって?」
「転校生も楽じゃないねぇ」
「よく学校来れるよね」
通りすがる人達は振り返り、ひやかしやら嫌味の言葉を私達に浴びせ掛ける。
「天満さん、大丈夫?」
「少しの辛抱だからね」
しかし、中には励ましや心配する言葉も聞こえて、私は内心ホッとした。華月など、いちいち足を止めて会話まで交わしている。
「華月行くよ」
「待ってー」
華月は話していた六年の男子に頭を下げると、私の隣に駆け寄った。
「何話してたの?」
「大変だねーって」
華月は顔だけ後ろを向いて、小さく手を振り前を向く。
「斎藤君っていうの。良い人ね」
「下の名前は?」
「えーっと、だ……だい、だぁー……」
なかなか思い出せない華月を放って、私は理奈に話しかけた。
「理奈の方は誰かいた?」
「まあ、ぼちぼち」
そう言いつつ、理奈はすれ違う女友達に笑いかける。
理奈はは、そのさっぱりした性格のせいか、友達が多い。うわべだけの付き合いもあるが、理奈が嘘を吐かない事も手伝って、そのほとんどが彼女を信用している。
故に、いざという時には助けてくれる事も多い。
今回もそれが期待できそうな友人が、何人かいたようだ。
すれ違いざまに、「頑張ってね」とか、「手伝える事ある?」などと声をかけてきた人がいたのだ。
理奈はその度に礼を述べて、笑顔を送る。その一つ一つの言動が、彼女の周りに人を集めるのだろう。
「何?」
感心して見ていると、理奈が照れ臭そうに頭を掻いた。私はその様子が可笑しくて、思わずにやけてしまった。
「人望が厚いのね」
「日頃の行いが良いからね」
照れ隠しなのか本気なのか、すぐにそっぽを向いてしまって分からなかったが、心なしか頬が緩んでいるように見えた。
「あっ、思い出した!」
今までずっと考え込んでいた華月が、掌を叩いて顔を上げた。
「大五郎だわ」
「さっきの人?」
「そうそう」
スッキリした表情の華月とは裏腹に、理奈が微妙な顔をした。
「酒みたい」
今時珍しい、古風な名前だ。そう言いたげな彼女に、私と華月は声を上げて笑った。
‥NEXT‥
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