「それって、本当?」
空き教室の静寂に、私の声が響いた。それから、自分が思わず声を大きくしてしまった事に気付き、慌てて口を塞いだ。
私達は今、華月と麻美から今日仕入れた情報を分かち合ってもらっている所だ。
なぜ、私が驚いているのかと言うと、その情報というのが、私や理奈が聞いたものよりも確かなものだったのだ。
「うん、だから今頃教室にいると思うわ」
できる限り抑えた声で、華月が囁く。
放課後の学校は、静か過ぎる。その中では、囁くような声ですら廊下中に響き渡ってしまう。
「ここで見付かると、怒られちゃうわね」
ふと気になって呟くと、理奈が立ち上がった。
「それなら行ってみる?」
突然の提案のようだったが、三人の内誰も異論を唱える人はいない。誰も話そうとしなかったが、全員が同じ事を考えていたのだ。
廊下に誰もいない事を確認して、私達は教室を出た。足音を立てないよう気を付けながら進んでいくと、私達の教室から小さな吐息が聞こえてきた。
そこから、私達は更に息をひそめて、足音にも今まで以上に気を配った。
「いる?」
後ろのドアから教室を覗き込む理奈に、私は声を出さずに訊ねた。すると理奈は無言で頷き、ついて来いと手招きをした。
彼女の指示に従って移動すると、教室の中程でしゃがみ込んでいる人影を見付けた。
――間違いない。あの人だ。
私達は二人ずつに分かれて、私と理奈は後ろに、華月と麻美は前ドアの方へ移動した。そして、それぞれの準備が整った事を確認すると、私達は一斉に戸を開けた。
「!」
机の合間に蹲った人は突然の音に驚き、弾かれたように立ち上がり振り向いた。その顔は、私が予想していたものと全く同じだ。
「あれー、まだ残ってたんだ」
偶然だと言うように理奈は言うが、明るい声色と反対に、その目は鋭い。相手は一瞬怯んだように肩をすくめ、教室の前方に目をやった。
逃げ場を探しての事だったのだろう。だが、残念ながら、前ドアは華月達が塞いでいる。
ベランダへ続く窓も、他の教室では鍵がかけられているから、どのみち抜け道はない。
「何の、用?」
震える声が、私達に投げかけられる。
「そんな事、あんたの方が知ってるんじゃないの?」
相手が、明らかに怯えているのが手に取るように分かる。だが、理奈はそれに構わず、冷たい目線を返す。
誰かが、息を飲む音が聞こえたような気がした。
‥NEXT‥
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