華月が所属する剣道部は、隣の中山小学校にある。
しかし、今は改修工事を行なっている為に、体育館も道場も使えない。だから今は仕方なく、市が管理運営している体育館を使用しているようだ。
「……とまあ、私が聞いたのはこんな感じよ」
清掃時間、星来は父親から訊いて来たという情報を、それは誇らしげに披露した。
さすが従姉妹。親同士仲が良い事もあって、そういった情報は難なく入ってくるらしい。
「因みに今は、大会が近付いてるらしいの。
だから、水曜日以外に土日もみっちり練習してるみたい」
「はー、凄いなあ」
平日は学校で勉強して、休日は練習をこなすのだ。体力が自慢の理奈も、さすがに気が遠くなる。
「でね、今度の土曜日なんだけど、お父さんが連れて行ってくれるって」
「どこに?」
「決まってるじゃない、華月の所よ」
「聞いてなかったでしょ」と、星来がこちらを睨む。
「へー、じゃあ見学できるんだ」
素直に喜んだ麻美に、星来はチッチッと指を振る。
「気付かれちゃダメよ」
「何で?」
麻美が不思議そうに訊ねる。星来は、そんな事も分からないのかと言うように溜息を吐き、人差し指を立てた。
「後で面倒になるじゃない」
「訳すと、『その方が面白いから』かな?」
さっきから、星来のうずうずする気持ちが伝わってくる。
「探偵ごっこ?」
「ま、そんな感じ」
ご名答と、星来が笑った。
以前のような犯人探しと違って、今回は浮気相手を探るのと似ているかもしれない。半分は遊びの感覚だ。
「またそんな事やって、華ちゃん怒らせても知らないよ」
麻美は、華月に隠れてやる事に抵抗を覚えているようだ。
しかし相手は星来だ。咎められるほどに、やる気が沸き起こってくるのが彼女である。
「四人の間で隠し事は許さないんだから」
星来は麻美の声に耳を貸さず、一人燃え上がった。
「麻美、諦めて。姫本気だから」
「ええーっ」
「あの……」
廊下の一角を占領する三人に、控えめな声がかけられる。見ると、箒を持った背の低い女子が申し訳なさそうに言った。
「すみません、足下良いですか?」
「あ、ゴメン!」
「すみませんー」
周りが掃除中という事を、すっかり忘れていた。女子が足早に去って行くのを見届けて、理奈は二人に告げた。
「それじゃあ、あたしは教室に戻るよ。詳しい事はまた後で」
「うん、了解」
「じゃあね」
手を振る星来と麻美に応えて、理奈は自分の教室に戻る。教室では既に清掃が終了していて、帰りの会が始まろうとしていた。
‥NEXT‥