夕方六時、華月と裕也は、時間通りに天野家に到着した。
インターホンを押して門を潜り、玄関を開ける。
「こーんばーんはー」
「いらっしゃい」
戸を開けた先で、星来が出迎えてくれた。
「これ、お土産ね」
「ありがとう」
持参した菓子を手渡すと、星来は礼を述べて台所へ駆け込んだ。それを見届けてから、華月と裕也は靴を脱ぐ。
玄関を入ってすぐ右側に、居間がある。裕也は開け放した入口から中を覗き、声をかけた。
「カズ」
「どーも」
中にいたのは和也だ。彼はこちらに向かって手を上げると、一升瓶と猪口を二つ持ってこちらへ歩み寄った。
「向こうの和室へ行こう。飲むだろ?」
「ああ」
和也の問いに、裕也が頷く。
「お父さんっ」
目的を忘れないで欲しい。裕也の袖を引っ張ると、裕也は苦笑いして頭をかいた。
「悪い悪い、そうだったな」
「星来、お前も来い」
和也も目的を思い出したようで、台所で手伝いをしている星来を呼んだ。
「はーい」
和室に入ると、裕也と和也は並んで座った。華月と星来も、その向かいに腰を降ろす。
彼女達の手元にはノートとシャープペンを用意し、話を聞く準備は万端だ。
「それじゃあ、何を話そうか」
「どうやって天家ができたのか知りたいわ」
「それと、どうして兄弟で名字が分かれるのか」
二人で訊ねれば、二人の父親は顔を見合わせた。そして揃って考え込んでしまった。
「どうしたの?」
何か不都合があっただろうか。不安になって二人を覗き込むと、裕也が指で頬をかきながら言った。
「その二つを話すと、長くなるぞ」
「その方が先生喜ぶもん」
また、家の起源を調べる事によって、皆に不平等感を与える事もなくなるだろう。そのように言うと、裕也が口元を緩めた。
「分かった」
そして和也と目を合わせ、少し考えてからゆっくりとした口調で話し始めた。
‥続く‥
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