とうとうこの時間がやってきた。周りの皆も、用意してきた画用紙や模造紙を取り出して、発表原稿の確認をしている。
華月と星来も、二人で作った紙芝居の確認をしていた。
「抜けてない、汚れてない……絵はオッケー」
「……こっちも大丈夫」
父親達から話を聞いた翌日から、二人は紙芝居を作り始めた。星来は絵、華月は文章を担当したのだが、これが正解だった。
それぞれの得意分野を中心に担ったため、一人でやるよりも効率良く、かつ早く完成させる事ができたのだ。
「何か緊張してきた」
いつもより動悸が早い。それが余計に、華月の緊張を煽っているようにも感じられる。
「何、止めたくなった?」
「まさか」
星来の問いに即答すると、彼女は肩を震わせて小さい声で笑った。
「自信だけはある」
「私だって、他に負けない自信はあるわ」
そう言う星来の手には、月刊の漫画雑誌のように分厚い画用紙の束。二つの物語を詰め込んだら、必然的に枚数が多くなってしまったのだ。
「うわ、すごいね」
「先生」
担任の小林が、二人が用意した画用紙を見て、感嘆の声を漏らした。
「これだと時間がかかりそうだな」
そして少し考える素振りを見せた後、また思いついたように人差し指を立てた。
「じゃあ、二人には最後に廻ってもらおう」
「トリですか」
「うわー、嫌だー」
嫌そうに振舞う華月達に、しかし小林はにっこりと笑った。
「期待しているよ」
こうして、発表会は始まった。
普段、皆の先祖の話など聞いた事がないから、たまにこういう発表があると面白い。仙台藩の家臣だった家もあれば、遠くから遥々やってきた家もある。また、記録がほとんど残っていないと言う家も、いくつかあった。
発表を見ていると、三十人超の暮らすの中に、様々な血が流れている事に気付く。考えてみれば当然の事だが、普段はその人の表面しか見る事がないから、全く気付かないのだ。
それらの気付きに感動しつつ、華月達は最後の確認を進めていた。小林に「期待しているよ」と言われてしまったからには、何一つおろそかにできないだろう。
「それではこれで、発表を終わります」
一つ前の女子が発表を終えて、黒板に貼った模造紙を片付け始めた。その間に、小林が華月達に目をやり、小さく頷いた。いよいよだ。
「それじゃあ、最後。華月と星来」
「はい」
名前を呼ばれて、二人は用意した画用紙とノートを持って前へ出た。そして、教卓代わりに使用しているオルガンの後ろに並んで立つと、星来が画用紙の端を揃えて、表紙を皆に向けた。華月も、文章を書き込んだリングノートの表紙をめくり、準備を整える。
それから二人は視線を交わすと頷いて、前を向いて礼をした。そして頭を上げると、華月はノートに書いた文字を、ゆっくりと読み始めた。
「これは、私達の家に、昔から伝えられているお話です」
‥続く‥
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