今日も、ベーター首都の空は晴れ渡っている。
そんな中、リラはいつものように働いていた。
最初は短期のつもりで始めた、八百屋でのアルバイト。しかし気付けば、もうすぐ一年が過ぎようとしている。
来てくれるお客との会話が、様々な人間模様を垣間見る事が出来て、結構楽しい。もう少しだけ見てみたいと辞めずにいたら、いつの間にやら二度目の春を迎えてしまっていたのだ。
今日もまた、次々に来るお客の相手をする。そしてようやく一段落した。そう思った時だ。
「これいくら?」
男が店頭に並べてあった果物を手に取り、リラに訊ねた。
休憩しようと思っていたのに。リラはそう思いかけて、すぐに止めた。
見上げた先にいたのは、茶の髪に透きとおるような青い瞳を持った美青年。
リラは凝視しそうになった自分の目を覚まし、慌てて答えた。
「はいっ、百ベルです」
動揺している心を見破られぬように、リラは笑顔を貼り付ける。
「じゃあ、これを五つもらえるかい?」
「はい、ありがとうございます!」
今度はちゃんとした笑顔を作り、雫型をした赤い果物を、紙袋に詰めていく。
「五百ベルになります」
「はい」
袋を渡すとすぐに、代金がリラの手に置かれた。鉄色のコインが五枚。きっちり五百ベルだ。
礼を言おうと顔を上げた瞬間、リラは息を飲んだ。
「ありがとう、また来るよ」
青年が、優しい笑顔をたたえていたのだ。しかも逆に礼を言われ、更にまた来ると。
「はいっ、お待ちしています!」
その言葉が嬉しくて、リラは思わず頭を下げた。
「ありがとうございました!」
既に歩き出した青年の背中に、精一杯の声をぶつける。
途中、青年は振り返り手を振ると、そのまま人込みに紛れてしまった。
「すっごい格好良かったんだから!」
帰宅して、リラは一つ年下の妹に、今日会った青年の事を話した。
「へー、良かったじゃない」
妹はにこにこと楽しそうに、相槌を打つ。
「また来てくれると良いね」
「うん」
『また来るよ』
あの言葉を信じて、また会える日を待ってみようか。
‥NEXT‥
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