広場は落ち着きを取り戻し、人々は何事もなかったように振舞っている。
リラ達もいつの間にか、姿を消していた。見回すが、それらしい姿は見えない。既に広場を出てしまったようだ。
「ところで、サクは何でここにいるんだ?」
「何でって、リラの初デートを見届けようとしたんだけど……」
答えて、サクはもう一度広場を見渡す。
結果はやはり、さっきと同じだ。
「どこ行っちゃったんだろう……」
半ば絶望しているサクと反対に、セイは何ともない顔をしている。
「もう、あなたのせいよ」
「何が?」
訊き返すセイに、サクは頬を膨らませる。
「あなたが自己紹介なんかしてる内に、リラ達が移動しちゃったんじゃないの」
あんな事をしていないで、リラ達の動向を見張っていれば、こんな事にならずに済んだのだ。しかし、セイは反省するどころか、クスリと笑ってサクと目線を合わせた。
「それを言ったら、サクもだよ。先に質問したのはサクだよな?」
「う……」
確かに。
しかし、あれは咄嗟に出てしまったものであって、訊かずにいられなかったのだ。そのように言うと、セイは声を上げて笑った。
「な、何よ」
自分でも、赤面しているのが分かる。
「いやあ、面白いやつだと思って……」
セイは未だ笑いが止まらず、息も絶え絶えだ。
発作が起きたように笑い続けているセイを一瞥して、サクは盛大な溜息を吐いた。
「今回は諦めるしかないのかなあ……」
思わず呟くと、セイの笑い声が止まる。視界の隅に動く物が見え、そちらに目をやった。次いで、頭に軽い衝撃が訪れる。
「何言ってんだよ」
気付けば、セイの手がリラの頭に乗せられていた。
「まだ十時だぜ、時間はたっぷりある」
セイはリラの頭を軽く叩きながら、にっこり笑った。
「探そう。俺もジン達を見届けたい」
「セイ……」
サクは、暫し考えた。探して、見付からないかもしれない。だが、もしかしたら見付けられるかもしれない。
考えて、考えたその結果。
「うん」
サクの返事が、セイの微笑みを、一層優しいものに変えた。
‥NEXT‥
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