「もう四時なんだ」
森を出るとほぼ同時に、時報が鳴り響いた。街の大時計の大きな鐘の音が、まだ明るい空にこだまする。
「時間大丈夫?」
「大丈夫、五時までに帰れば良いんだから」
リラが心配そうに訊ねてきて、ジンは心配ないと微笑む。するとリラは安堵の表情を浮かべ、小さく笑った。
「何?」
問い掛けると、リラはジンの前に駆け出て振り向いた。
「今日はお誘いありがとう、楽しかったわ」
「……そうか。それは、よかったよ」
満面の笑顔。それはジンにとって、何より嬉しい礼だ。
「俺も、楽しかったよ」
微笑みを返せば、リラもより一層の笑顔をくれる。それだけで、今日は誘って良かったと思えてくる。
「よぉ、兄ちゃん」
「また会ったな」
ジンが幸せを噛み締めている丁度その時だ。耳障りな声がして、そちらに目をやると、見覚えのある二人組が歩いて来た。
今朝、広場でリラに絡んでいた二人だ。
「まだ何か?」
溜息混じりに訊ねると、二人はにやにやと気味の悪い笑みを浮かべた。
「冷てーなぁ、折角仲間を連れて来たって言うのに」
「何?」
見ると、ジン達の周りに、ガラの悪い顔が五つ並んでいる。
「さっきのあんた、ちょーっとムカついたんだよね。だから」
呼んで来た。そう言う男の顔から、瞬時に笑顔が消える。
「まあ、楽しもうよ」
街の空に、茜が差し始めた時だった。
‥NEXT‥
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