ジンに襲い掛かって来た男達は、街で一番評判の悪い不良グループだった。捕まえようにも決定的な証拠がないため、警察も手を拱いていたという。
「王子のご活躍のお陰です」
「とんでもない」
警備隊隊長が、改めて頭を下げる。ジンが頭を上げるよう言うと、彼はこちらを窺いながら体勢を直した。
「運が良かったんですよ」
もしも、セイが剣を届けてくれなかったら。その先を考えて、ジンは身体を震わせた。
とにかく、無事で良かった。
心の中で呟いて、サクに目をやる。彼女は目が合うとびくりとして、ぎこちない笑みを浮かべた。
「リラ、怪我はない?」
「うん。あ、はい」
歩み寄り訊ねれば、リラは少し戸惑った様子で頷く。
「妹さんは?」
「あ、ハイ、元気ですっ!」
サクも緊張した面持ちで、ジンに返した。
「これだから、バラしたくなかったんだけど」
「仕方ないだろ」
自分達、そして彼女達を守る為。それにしても、いきなり態度が変わるのは、やはり悲しい。
「あの」
躊躇いがちに、リラが声を上げる。そしてサクと目を合わせた後、揃って頭を下げた。
「ありがとうございました。それと、」
「知らなかったとはいえ、数々のご無礼……」
「止めろ」
サクが全て言い終える前に、セイが遮った。
「俺達は、そんな事をして欲しい訳じゃない」
そう言う表情は、どこか悲しんでいるようにも見える。しかしサクはそれに気付かず、頭を上げようとしない。リラも、サクと同様顔を伏せたままだ。
「二人共、顔を上げて」
声をかけると、二人は一拍置いてゆっくり頭を上げた。二人共、ジン達の様子を窺っているようだ。
胸の奥が微かに痛む。ジンはリラの手を取り、できる限り優しく微笑んだ。
「そんな顔見たくないよ。いつものままが良い」
言葉を話せば、どうしても眉間に力が入る。
「そういうこと。だからサクも、さっきみたいに笑ってくれよ」
ジンとセイが揃って笑えば、姉妹は顔を見合わせ、すぐにジン達に目を戻す。そして、握ったままのリラの手が、弱い力で握り返された。
「はいっ」
返事と共に、リラの顔にあの微笑みが戻った。サクもリラに負けない、とびきりの笑顔をセイに向けている。
すると突然、周囲から拍手が沸き起こる。観客がいる事を忘れていたのだ。
リラとサクは思わず身を寄せ合い、セイは後ずさる。ジンはとりあえず微笑み、観衆に向かって軽く会釈した。
「ねえ、そういえば」
「ん?」
拍手が鳴り止まぬ中、リラがジンの袖を引っ張る。身を屈めて何とか聞こえる位置まで近付くと、彼女も少し声のボリュームを上げた。
「五時まで帰るって言ってたわよね?」
「……あ」
忘れていた。
慌てて時計を見ると、五時十分前を指している。城まで歩いて二十分、走っても十五分程度。
これでは間に合わない。
「やば……」
「あの、お貸ししましょうか?」
申し出る声に振り向くと、警備隊隊長が馬を連れて立っていた。
「良いんですか?」
「はい、人に慣れている馬ですから」
触れてみたが、嫌がる様子もない。それならば、好意に甘えよう。
「ありがとうございます、明日必ずお返しします」
「お役に立てて光栄です」
再度頭を下げる隊長にもう一度礼を告げ、ジンは馬に跨った。
「リラ、今日はこんな事になって済まなかった。妹さんも」
姉妹に言葉をかけ、答える間も与えずセイを見る。
「セイは、二人を家まで送れよ」
「分かってるから、早く行け」
「それじゃあ、また」
セイの声を聞き、ジンはその場にいる者達に手を振り、手綱を強く握った。
「気を付けてーっ!」
駆け出したジンの背中に、リラが叫ぶ。変わらぬリラの声に、ジンは思わず口元を綻ばせた。
‥NEXT‥
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