今日も、王都は晴れている。
「リラ」
「あら、ジン」
仕事が一段落して休憩に入ろうとした時、ジンがリラを訪ねて来た。
朝からずっと立ちっぱなしで疲れていたリラだが、彼の顔を見た瞬間、そんなものはどこかへ吹き飛んだ。
リラはジンに駆け寄り、ぶつかる寸前で足を止めて、間近から彼を見上げた。
「遅かったじゃない。今日は来ないのかと思ったわ。どうしたの?」
いつもなら、午前中に姿を見せる事が多いジンだが、今日は午後。しかも夕方近くになってからやって来た。だからリラは、三時を過ぎた時点で既に諦めていたのだ。
「ごめん。本当は、もっと早く来るつもりだったんだけど」
勢い良く駆けて来たせいで、バランスを崩しそうになったリラを支えて、ジンは苦笑した。
「運悪く、父に捕まってね」
「どうして運が悪いの?」
するとジンはリラから顔を背けて、小さく息を吐いた。
「あの人は、いちいち話が長いんだ」
そのくせ、重要な事はなかなか言い出さないから、とジンはもう一度溜息を吐く。そしてリラに目を戻すと控え目に微笑んだ。
「今から城へおいで。今日は両親共、休みなんだ」
「……え?」
城へ?
あまりに突然の事で、リラは最初、何を言われたか理解できなかった。だが、次第に頭の働きが戻ってきて、ジンの言葉を理解すると、彼女は慌てた。
「嘘ウソうそ! そんな突然? ああ、どうしよう、服……。やだ、お化粧もしてないっ!」
赤くなったり青くなったりと忙しいリラを宥めるように、ジンは彼女の背中を軽く叩いた。
「リラ、落ち着いて」
そう声をかけられて、ようやくジンに視線を定めたリラに、彼は優しく笑いかけた。
「大丈夫。飾らなくても、リラは充分可愛いんだから」
「でも……」
思い切り眉を寄せてジンを見詰めると、彼はリラの肩に手を置いて、店の奥に目をやった。
「すみません、リラをお借りしたいのですが」
ジンが声をかけると、店主が出て来て愛想の良い笑顔を二人に向けた。
「ああ、構わないよ。リラは今日もずっと働き通しだったから疲れたろう? そのまま真っ直ぐ帰ると良い」
「良いんですか?」
「勿論だ。さあ、王様と王妃様をお待たせしてはいけないよ。早く行きなさい」
店主は言うと、リラのエプロンを脱がせ、笑顔で手を振った。
「ありがとうございますっ。行って来ます!」
リラは、店主への挨拶もそこそこに、ジンに手を引かれて人々が行き交う大通りに駆け出て行った。
‥NEXT‥
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