「何だ、普通の人なのね」
ジン王子とその彼女の姿が見えなくなると、仲の良いメイド達が集まって話し出した。アンナも、周囲を気にしつつ話に加わる。
「だから王子も仰ったじゃない。普通の女の子だって」
「それにしたって、もう少し個性的な人かと思ったわ。あの方が、特定の人を好きになるなんて……」
そうなのだ。ジン王子はこれまで、彼女というものを作った事がない。しかしそれは、決して、女に興味がないとか、男が好きだとか、そういう事ではない。
実際、ジン王子は女に優しいし、恋もする。王子自身、一人の青年なのだ。
「でも、やっぱり納得いかないわ」
「何であの人なのかしら?」
例えば、相手が素晴らしく美人だとか、良家のお嬢様だったなら納得できよう。だが、ジン王子が連れて来たのは、可愛いけれども美人ではない、八百屋でアルバイトをしているという、いわゆる“庶民”だったのだ。
彼女達が気に入らないのは、そこだった。
「普通の女の子なら、お城の中にも沢山いるのに」
ここにいるメイド達は皆、庶民出身の娘達ばかり。身分、容姿共にそう変わりはないはず。それにも関わらず、王子があの少女を気に入ったっと言う事は、きっと何かがあるはずだ。
「皆で、それとなく探ってみましょう」
アンナが言うと、皆は頷いて同意を示した。
「くしゅんっ」
広い応接間に、抑えたようなくしゃみが響いた。
「風邪かい?」
ジンと同じ青い目をした王が、心配そうにリラを覗き込む。リラは慌てて首を振ると、ぐずぐずしている鼻を擦ってにこりとした。
「きっと、誰かが噂をしているんです」
「ほう」
王は面白がるように口元を緩ませ、身を乗り出した。伸びかけた銀の前髪が、さらりと音を立てる。
“王様”というイメージとは大幅に違う彼の容姿は、至ってシンプルだ。二人の息子とそっくりな、すらりとした鼻筋と細い顎は、宝石のような瞳によく似合う。体格も細めだが、肩ががっしりとしているから、何となく大きいような印象を受ける。
着ている物も、決して派手ではない。どこにでもあるような薄手のシャツと、これまたどこにでもあるようなズボンを上手に着こなしている。
「お茶でございます」
「ああ、ありがとう」
リラが王に見入っていると、どこからか黒いメイド服を纏った少女が現れ、四人の前にカップを置いた。目を伏せているから分かりにくいが、歳はリラと近そうだ。
「ありがとうございます」
「……失礼致します」
リラが彼女に向かって礼を言うと、彼女は後ろで束ねた濃い目の茶髪を垂らして、深く頭を下げるとさっさと部屋を出て行ってしまった。
「まったく、愛想のないで済まないね」
「……いいえ」
王が言うように、愛想がないだけなら良い。だが、今の彼女はそれだけではない気がした。
(もしかして、あんまり歓迎されていないかも……?)
そのように思いはしたが、それ以上考えても悲しくなるので、考えるのは止めにして出されたお茶に口を付けた。
‥NEXT‥
PR