街の時計が、二時を知らせる。この場所に到着してから、もう二時間も経ったのだ。
その間ジンは、リラが作ったサンドウィッチを食べて、他愛もない会話を交わした。
そしてそのまま約二時間。いい加減話題も尽きてきて、どちらともなく会話を終わらせた。
訪れた沈黙。しかしそれは、決して嫌なものではない。穏やかな陽射しも手伝って、二人の間に心地良い空気が漂う。
ジンは寝転び、リラは眼下の町並みを、ただ見詰めている。絶えず流れてくる風が、高い所にある雲を押し流していく。
こんな時を過すのは、どれ位振りだろう。寝転んで、ただ空を見上げているだけなのに、それだけで癒される。
「暖かいね」
隣に座ったリラが、横目でジンを見た。
「うん」
ジンは頷くと起き上がり、リラと同じ方向を見下ろした。
「リラは、あの広場の由来を知ってる?」
「記念広場の事?」
ジンが頷くと、リラは首を振った。
「そういえば、知らないわ」
広場自体は有名だが、それにまつわる物語はあまり知られていない。リラもやはり、広場の存在を知っていても、作られた経緯などは知らないようだ。
「ねえ、教えて」
「暗いよ?」
しかしリラは首を振った。
「自分が住んでる街だもの。どんな事でも知っておきたいの」
「……そうか」
単なる好奇心ではないと、その目が物語る。
「それなら、話してあげる」
真剣な瞳に答えよう。
ジンは目を閉じて脳内をまとめた後、爪先の花に目をやった。
そして軽く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。
***
今から約百七十年前、ベーター星上には六十を超える国が存在していた。
どの国も自国の利益を優先し、そのために、日々争いが絶えなかった。一次は栄えた国々も、既に崩壊への道を歩み始め、星内は混沌としていた。
それは、ジン達が暮らすこの国も例外ではない。
街は荒れ、犯罪が横行。貧困や病が民を襲い、いたる所に死体が転っていた。しかしそれらを片付ける者もいない。
現在の美しい町並みにはほど遠い、それは酷い状態だった。
そんな中、当時の国王はある噂を耳にした。発展途上だった隣星ガイルが、ベーター侵略を目論んでいるというのだ。
当時、ベーター各国の指導者は皆、星内の事で手一杯だった。そのため、外星の変化など、全く見ていなかったのだ。
星内の秩序が崩れている最中、外から攻められたら。その先を想像して、王は慌てた。
そして、
「そんな事はあってはならない。そうなる前に、星内が一つになるべきだ」
と全世界に発信したのだ。
同時に、温存していた兵力を解き放ち、ベーター統一に向けて動き出した。
近隣諸国の指導者は最初、皆冷ややかに王の動きを見ていた。しかし、王の説得を受けている内に、だんだんと感化されていく。
王が星を思う気持ちや熱意が、大変なものだったのだ。
王はそうやって、少しずつ仲間を増やし、ベーター統一を成し遂げていった。
そしてついに、今から百五十年前の春、最後まで抵抗していた国を統一。“ベーター星国”と国名を改め、再生に向けて一歩を踏み出したのだ。
国の中心は、王が拠点にしていたこの街に置かれ、指導者は王の血を引く者と定められた。
記念式典のために街の中央に作られた広場は、ベーター統一のシンボルとして現在まで残されている。
結局、ガイルが攻めて来るという噂は、噂のままで終わった。以前から、ベーターを敵視していたガイルが、急成長を遂げた事から出たデマだったらしい。
「脅かすな」と国中から声が寄せられたが、その中に、王の行動を非難するものはなかったという。
それから百五十年もの間、ベーター星国は成長を繰り返し、今のような平和を維持し続けている。
‥NEXT‥
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