ベーター星国の城下町は、今日も賑わいを見せている。
美しい装飾品を売る店や、どこかの民族料理を振舞う食堂。面白そうな物を売る者もいれば、どこか怪しげな店もある。
どれも興味を引くものばかりだが、その中に一際、彼の気を引くものがあった。
小さな八百屋の店頭で、笑顔を絶やさず接客する少女。見たところ、十五、六歳くらいだろうか。
少女の傍らには、見た事のない果物がずらりと並んでいる。
「これいくら?」
気が付けば、目に入った果物を手に取って、少女に話し掛けていた。
「はいっ、百ベルです」
少女は他の客と同じように、笑顔で答える。
「じゃあ、これを五つもらえるかい?」
「はい、ありがとうございます!」
少女は可愛らしく礼を述べると、早速指定した果物を袋に詰めた。
「五百ベルになります」
「はい」
金を渡しながら商品を受け取ると、彼は頭一つ小さい彼女に微笑んだ。
「ありがとう、また来るよ」
「はいっ、お待ちしています!」
彼の言葉に、少女は嬉しそうに頷き、深く頭を下げた。
「ありがとうございました!」
背中に少女の声を受けながら、彼は苦笑した。
「……らしくないな」
自分らしくない、微かに感じるこの鼓動。これは多分、きっと……。
彼は高まる可能性を誤魔化すように、さっき買ったばかりの果物を、皮のまま齧った。
「あま……」
雫の形をしたそれは、赤い見かけと酸っぱそうな匂いにそぐわず、砂糖のように甘かった。それは胸を誤魔化すどころか、彼の心を更にかき乱す。
「やばいかも……」
可能性が確信に変わるのは、時間の問題かもしれない。
‥NEXT‥
PR