第十三話
- どうして -
どうして、こんな事になってしまったのだろう。
リラと一緒に出かけて、途中までは楽しかった。
しかし今は、
「さっきので諦めたかと思ったか? 残念。あそこは警備隊がウロウロしてて、喧嘩どころじゃないんだよ」
楽しさとは程遠い状況に置かれている。
どうやらいつの間にか、喧嘩を売ってしまっていたようだ。ジンは深い溜息を吐き、前に並んだ男達に目をやる。
「勘弁して頂けませんかね。こちらとて暇じゃないんですよ」
「ハァ? 何言ってんだオマエ」
呆れとも怒りとも取れる声を上げ、リーダーらしき男がジンに近付いて来た。
「さてはオマエ、弱いんだろう? だからそうやって……」
「ほう、私を弱いと言いましたね?」
人を馬鹿にしたような言い方だ。これには温和なジンも、黙っている訳にいかないだろう。
ジンは懐から紙切れを取り出すと、それを近くにあった武器屋の主人に渡した。
「そこの青い剣を売ってくれ。請求はここへ頼む」
「え? あっ、ハイッ」
武器屋は紙を見ると、慌てて剣をジンに差し出す。その顔は、心なしか赤くなっているようだ。
「ご武運を」
「感謝する」
ジンは武器屋の言葉に頷き、持っていた紐で鞘を固定する。準備は万端だ。
「流石に、真剣勝負とはいきませんから」
「ハッ、上等じゃねーか」
ジンが口角を上げると、リーダーの男は仲間達に呼びかけた。
「殺すつもりでかかれよ!」
本当に、どうしてこんな事に……。
***
帰り道、サクとセイは小さな商店街を歩いていた。小さい割に様々な種類の店があるから、大通りに負けず劣らずの賑わいを見せている。
「ねえ、何か騒がしくない?」
「いつもじゃないのか?」
この道はいつも、ざわめきが絶えない。しかし、人々の声色がいつもと違う。
それに加え、手前には幾重もの人垣が、サク達の行く手を阻んでいる。明らかに、何かが可笑しい。
「いつもはこんなんじゃないもの。おかしいわよ、何が起こってるのかしら……」
サクは背伸びをして、人垣の向こうを見ようとしたが、なかなか見えない。すると、近くにいた小太りの男が、サクを見ずに言った。
「喧嘩だよ。不良グループが、格好良い兄ちゃんに喧嘩を売ったんだ」
そう言って、男は場所を開けてくれた。そこは、丁度人の頭が途切れて、遠目ではあるが見物には丁度良い場所だ。
「ありがとうございます」
サクは男に礼を述べ、早速覗いてみる。セイもサクの後ろに陣取り、一緒になって覗き込んだ。
「あっ!」
その先を見た瞬間、サクとセイの声が重なった。二人は顔を見合わせ、もう一度、確かめるように人垣の中心を見る。
「あれって、どう見てもセイのお兄さんだよね?」
「何やってんだよ、あいつ」
よく見れば、相手グループの内二人は、今朝広場にいた男達だ。今更になって仲間を連れて現れるとは。
卑怯というか、何と言うか、……変だ。
そんな事を考えるサクを無視して、セイは何か見つけた様子で肩を叩いた。
「お姉さんは無事のようだぞ」
「本当?」
セイが指す方に、小さな武器屋がある。その中で、店主に守られるような形でリラが立っていた。
「良かった……」
無事だったのか。
しかし、安心したのも束の間。四人の男達が一斉に、ジンに向かって行ったのだ。
「危ないっ」
サクは思わず叫んだ。しかし、ジンは意図も簡単に交わしていく。鞘が付いたままの剣を振り回し、自分よりも大きな男達をなぎ倒したのだ。
「すごい!」
「でも心配だな」
興奮するサクと反対に、セイが唸った。その表情は、どこか深刻そうだ。
「何が?」
訊ねると、セイは周囲を気にしながら、サクの耳に口を寄せた。
「あいつ、慣れた武器じゃないと体力続かないんだよ。
今日に限って、剣も銃も忘れて行きやがった」
「でも、あと残り一人だから」
大丈夫。言いかけたサクを、セイが否定する。
「甘いな。あの不良グループ、メンバー数が百人近いって聞くぞ。多分今頃、騒ぎを聞き付けた仲間が集まってるんじゃないか」
「そんな……」
話している内に、それらしき男達がジンを囲み始める。
「どうしたら良いの?」
このままでは、ジンが危ないのではないか。見上げるサクに、セイは笑った。
「そのために、俺がいるんだよ」
そう言って、腰を指した。青い剣が二本挿してある。そして、同じ色の拳銃も。
「サクはここにいろ」
「待って」
人込みを掻き分けるセイを、サクは呼び止める。
「あなた一体……」
何者?
言い終わる前に、セイは困ったように微笑んだ。
「すぐに分かる」
セイは言うと、人垣の最前線に出て行った。
‥NEXT‥